「できかねます」で角を立てずに断るには?相手を不快にさせないメール例文と4つの手順
「『できかねます』と送ったら、お客様を怒らせてしまうのではないか…」
「冷たい印象を与えて、今後の関係が悪化したらどうしよう…」
今、メール作成画面の前で、そんな不安を感じて手が止まっていませんか?その気持ち、痛いほど分かります。私も新人の頃、断りのメールが送れずに悩み、結果として返信が遅れて余計にお叱りを受けた苦い経験があります。
しかし、ビジネスにおいて「できないこと」を明確に伝えるのは、実は最大の誠意なのです。曖昧な返事で期待を持たせることこそが、最も相手を傷つけます。
大切なのは「No」と言うこと自体ではなく、その前後にある「クッション言葉」と「代替案」のセットです。この記事では、私が10年の営業現場で磨き上げた、相手を不快にさせず、むしろ信頼を高めるための『断りの4ステップ』を包み隠さずお伝えします。
この型を使えば、もう断ることは怖くありません。自信を持って送信ボタンを押せるようになりますよ。
この記事の著者
高橋 誠(たかはし まこと)
法人営業マネージャー / ビジネスコミュニケーション・コーチ
大手IT企業で営業成績トップを達成後、マネージャーとして100名以上の若手営業を育成。「私も昔は断るのが怖かった」という経験から、精神論ではなく、誰でも再現できる「型(スクリプト)」を用いた実践的な指導を行う。「断り方」の研修でチームの成約率を改善した実績多数。
「できかねます」は失礼?正しい意味とビジネスでの立ち位置
まず、言葉そのものへの不安を解消しましょう。「できかねます」という表現は、決して失礼な言葉ではありません。
文化庁の「敬語の指針」などの定義に基づくと、「できかねます」は「〜することが(心情的・状況的に)難しい」という意味を持つ婉曲(えんきょく)表現です。単に「能力がないからできない」と拒絶する「できません」とは異なり、「したい気持ちはあるが、事情があってできない」というニュアンスを含んでいます。
ビジネスシーン、特に角を立てたくない場面において、「できかねます」と「できません」は明確に使い分けるべき対比的な関係にあります。
「できません」と「できかねます」のニュアンス比較
| 表現 | ニュアンス | 相手に与える印象 | ビジネスでの推奨度 |
|---|---|---|---|
| できません | 拒絶(能力や意思の欠如) | 冷たい、突き放された、協力する気がない | ❌ 推奨しない(緊急時を除く) |
| できかねます | 婉曲(事情による困難) | 丁寧、申し訳なさ、事情があることが伝わる | ⭕️ 推奨(標準的な表現) |
| いたしかねます | 謙譲(より丁寧な辞退) | 非常に丁寧、格式高い、強い敬意 | ⭕️ 推奨(目上の人・社外向け) |
このように、「できかねます」は相手を尊重するための適切な敬語です。ただし、一つだけ注意点があります。それは「できかねません」という誤用です。「かねる」はすでに否定の意味を含んでいるため、「できかねません」とすると二重否定になり、「できるかもしれない」という意味になってしまいます。この誤用だけは絶対に避けましょう。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 目上の方や、特に重要な取引先に対しては、「できかねます」よりも「いたしかねます」への言い換えを検討してください。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちですが、「できかねます」は文法的に正しくても、受け手によっては「能力不足」と捉えられるリスクがゼロではないからです。「いたしかねます(致しかねます)」を使うことで、より謙虚に「私の力不足で申し訳ない」という姿勢を示すことができ、無用な摩擦を回避できます。
【図解】相手が納得する「断りの4ステップ・スクリプト」
言葉の意味が分かったところで、いよいよ実践編です。
実は、「できかねます」という言葉単体では、相手を納得させることはできません。断りのメールで最も重要なのは、「クッション言葉」「結論」「理由」「代替案」という4つの要素を正しい順序で組み立てることです。
この4ステップは、相手の期待を受け止め(クッション)、明確に意思を伝え(結論)、納得感を醸成し(理由)、未来の可能性を示す(代替案)という、信頼を守るための最強の構造です。

なぜこの4ステップが必要なのか?
特に重要なのが、「断り(No)」と「代替案(Counter Offer)」の補完関係です。「No」だけで終わらせると、それは単なる拒絶になります。しかし、「今回は無理ですが、これならできます」という代替案を提示することで、断りは「条件付きの承諾」や「前向きな提案」へと変化します。
また、「クッション言葉」は「結論」の前に置くという順序も絶対です。いきなり「できかねます」と書くと、相手は心の準備ができず、攻撃されたように感じてしまいます。クッション言葉は、相手の心を守るエアバッグのような存在なのです。
そのまま使える!状況別「できかねます」メール例文集
それでは、先ほどの4ステップを適用した具体的なメール例文を見ていきましょう。あなたの状況に合わせて、「代替案」の部分を書き換えて使ってください。
ケース1:納期短縮の依頼を断る場合
顧客から「急ぎでお願いしたい」と無理な納期を提示されたケースです。
件名:納期短縮のご相談に関する件
〇〇株式会社
佐藤様
いつも大変お世話になっております。
株式会社△△の高橋です。
この度は、案件〇〇の納期短縮についてご相談いただき、誠にありがとうございます。
社内で調整を行いましたが、
【1. クッション言葉】誠に申し上げにくいのですが、
【2. 結論】ご提示いただいた日程での納品はいたしかねます。
【3. 理由】現在、他の進行中案件との兼ね合いで、
品質を担保するための十分な検証時間が確保できないためです。
【4. 代替案】しかしながら、以下のいずれかの方法であれば対応が可能でございます。
案1:全機能ではなく、主要機能のみを先行して〇月〇日に納品する。
案2:納期を1週間後ろ倒しいただき、〇月△日に一括納品する。
貴社のご希望に添えず大変心苦しいのですが、
品質維持のため、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。
--------------------------------------------------
💡 ポイント:
単に「間に合いません」と言うのではなく、「品質を担保するため」というポジティブな理由に変換しています。また、代替案として「部分納品」を提示することで、相手の「早く使いたい」というニーズに一部応えています。
ケース2:予算オーバーの値引き要求を断る場合
提示した見積もりに対して、「もう少し安くならないか」と言われたケースです。
件名:お見積もりの再検討に関する件
〇〇株式会社
田中様
いつも大変お世話になっております。
株式会社△△の高橋です。
お見積もりについてご検討いただき、ありがとうございます。
価格調整について社内で検討いたしましたが、
【1. クッション言葉】大変恐縮ながら、
【2. 結論】今回ご提示した金額からの値引きはできかねます。
【3. 理由】本サービスは、専任のサポート体制を含めた適正価格として
設定させていただいており、これ以上の値下げはサービスの品質維持に関わるためです。
【4. 代替案】もしご予算に限りがあるようでしたら、
オプション機能の「〇〇」を外すことで、
総額を△△円に抑えるプランもご提案可能です。
ご希望に添えず申し訳ございませんが、
改めてご検討いただけますと幸いです。
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💡 ポイント:
安易な値引きは自社の価値を下げるだけでなく、既存顧客への裏切りにもなりかねません。「品質維持のため」と毅然と伝えつつ、「機能の調整」という代替案で予算内に収める方法を提示しています。
「代替案」が思いつかない時は?断りの罪悪感を消す思考法
「4ステップが大事なのは分かったけど、良い代替案が思いつかない…」
そんな時もあると思います。でも、安心してください。代替案は「相手の要望を100%満たす完璧な解決策」である必要はありません。
代替案の本質は、解決策そのものではなく、「あなたの課題解決に協力したいという姿勢」を見せることにあります。
例えば、以下のような提案も立派な代替案です。
- 時期をずらす: 「今週は難しいですが、来週の火曜日なら可能です」
- 担当を変える: 「私では対応できかねますが、詳しい担当者を紹介します」
- 他社を紹介する: 「弊社では扱っていませんが、〇〇社様のサービスなら実現できるかもしれません」
どうでしょうか?これなら思いつきそうですよね。
「断る」のではなく、「条件を変えて相談する」と捉え直してみてください。そうすれば、断ることへの罪悪感は消え、建設的なビジネスパートナーとしての自信が湧いてくるはずです。
よくある疑問(FAQ)
最後に、私がよく受ける質問にお答えします。
Q. 目上の人や上司に対しても「できかねます」を使って良いですか?
A. 文法的には間違いではありませんが、より丁寧な「いたしかねます」を使うのが無難です。「いたす」は「する」の謙譲語なので、相手を立てる響きが強くなります。
Q. 電話や口頭でも「できかねます」は使えますか?
A. はい、使えます。ただし、メールと違って表情が見えない(または直接見える)分、声のトーンが重要です。「申し訳ない」という気持ちを込めて、少し声を落として伝えると誠意が伝わります。
Q. 英語で「できかねます」はどう表現しますか?
A. “I cannot…” と言うとキツイ印象になるので、“I am afraid I cannot…” (恐れ入りますが、できません)や、“Unfortunately, we are unable to…” (残念ながら〜することができません)というフレーズを使います。英語でもクッション言葉の概念は同じです。
まとめ:断ることは、誠実さの証明である
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「できかねます」という言葉を使って断ることに、まだ不安はありますか?
きっと、読み始める前よりも、「これなら書けそうだ」という気持ちになっているのではないでしょうか。
断ることは、決して相手を拒絶することではありません。
できないことを「できない」と正直に伝え、その上で「どうすれば実現できるか」を一緒に考える。そのプロセスこそが、ビジネスにおける誠実さであり、信頼関係を深めるチャンスなのです。
さあ、深呼吸をして。
紹介した例文の「代替案」の部分だけ、あなたの状況に合わせて書き換えてみてください。
あなたのその誠意は、必ず相手に伝わります。
参考文献
- 敬語の指針 – 文化庁, 2007年2月2日
- 「できかねます」の正しい意味とビジネスでの使い方 – Forbes JAPAN, 2024年
- ビジネスチャットの「断り方」 – Chatwork


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