ベンタブラックは買える?個人が入手可能な「世界一黒い塗料」と究極の代用案
「あのベンタブラックを、自分の作品に使ってみたい」
模型やアート制作に情熱を注ぐあなたなら、一度はそう夢見たことがあるのではないでしょうか。光を99.965%も吸収し、立体物をまるで「空間に空いた穴」のように見せてしまうあの黒さは、クリエイターにとって魔法のような素材です。
しかし、結論から申し上げます。残念ながら、ベンタブラックは個人では100%購入できません。どれだけお金を積んでも、一般のモデラーがベンタブラックを入手するルートは存在しないのです。
ですが、ここで諦める必要はありません。実は、模型ユーザーが今すぐAmazonで購入できる「世界一黒い塗料」が存在します。さらに、その塗料とある「布」を組み合わせることで、ベンタブラックに肉薄する「視覚的ブラックホール」をあなたの手で生み出すことができるのです。
この記事では、ベンタブラックが手に入らない明確な理由と、その代わりとなる「黒色無双」と「特級暗黒布 太黒門」を使って、失敗せずに究極の黒を表現するためのプロのテクニックを伝授します。
この記事の著者
工藤 漆黒(くどう しっこく)
模型マテリアル研究家 / プロモデラー
特殊塗料の検証と模型表現を専門とするプロモデラー。理論だけでなく、数々の高価な塗料を失敗で無駄にしてきた経験から、「現場で本当に使えるマテリアル」だけを厳選して紹介します。「高い塗料を買って失敗する悲劇」をゼロにすることが私の使命です。
なぜベンタブラックは個人で購入できないのか?【3つの壁】
まず、あなたの「もしかしたら買えるかも」という淡い期待を、論理的に解消しておきましょう。ベンタブラックが市場に出回らないのには、単なる在庫不足などではない、物理的かつ法的な「3つの壁」が存在するからです。
1. 輸出管理規制の壁(軍事転用のリスク)
ベンタブラックは、単なる黒いペンキではありません。その正体は「カーボンナノチューブ」という先端素材の集合体です。この技術は、ステルス戦闘機の表面処理や、軍事衛星のセンサー感度向上など、高度な軍事技術に転用可能です。そのため、開発元のSurrey NanoSystems社があるイギリス政府によって厳格な輸出管理規制が敷かれており、ベンタブラックは一般市民への販売が法的に禁止されています。
2. 独占契約の壁(芸術界のタブー)
「芸術用途なら使えるのでは?」と思うかもしれません。しかし、ここにも大きな壁があります。現代彫刻家のアニッシュ・カプーア氏は、ベンタブラックを芸術作品に使用する独占的な権利を開発元と契約しています。つまり、アニッシュ・カプーア氏とベンタブラックは排他的な独占関係にあり、他のアーティストやクリエイターがベンタブラックを作品に使用することは、契約上許されていないのです。
3. 設備要件の壁(400℃の高温処理)
仮に法的な壁をクリアできたとしても、物理的な問題が残ります。オリジナルのベンタブラックを定着させるには、対象物を400℃以上の高温チャンバーに入れて処理する必要があります。プラスチックやレジンでできた模型を400℃の環境に入れれば、一瞬で溶けてしまいます。スプレー版の「Vantablack S-VIS」も存在しますが、これも専用の塗装設備とライセンス契約が必須であり、個人の塗装ブースで扱える代物ではありません。

模型ユーザーの最適解!「黒色無双」と「太黒門」の実力
ベンタブラックが手に入らないことはお分かりいただけたと思います。しかし、絶望する必要はありません。私たち模型ユーザーには、ベンタブラックという「入手不可の理想」に対する、「入手可能な現実解」が用意されています。
それが、日本の光陽オリエンタルジャパンが開発した塗料「黒色無双(Musou Black)」と、背景用布「特級暗黒布 太黒門(Futo Kokumon)」です。
肉眼では区別不能なレベルの「黒さ」
まずは、その実力を数値で見てみましょう。
世界一黒いマテリアルのスペック比較
1. ベンタブラック (Vantablack)
- 分類: ナノ素材(カーボンナノチューブ)
- 可視光吸収率: 99.965%
- 入手難易度: × 不可能
- 特徴: 個人購入は100%不可。400℃の高温処理が必要なため、仮に入手できても模型には使えない。
2. 特級暗黒布 太黒門 (Futo Kokumon)
- 分類: 布(撮影背景用)
- 可視光吸収率: 99.9%
- 入手難易度: ◎ 容易 (Amazon等で購入可)
- 特徴: 撮影背景の最適解。 パイル処理で光を閉じ込める。触っても性能が落ちないため扱いやすい。
3. 黒色無双 (Musou Black)
- 分類: 水性アクリル塗料
- 可視光吸収率: 99.4%
- 入手難易度: ◎ 容易 (Amazon等で購入可)
- 特徴: 塗るならこれ。 エアブラシ推奨。塗膜が非常に弱く、触れると性能が落ちるため注意が必要。
4. 一般的な黒塗料
- 分類: ラッカー / アクリル / エナメル
- 可視光吸収率: 94〜98%
- 入手難易度: ◎ 容易
- 特徴: 塗膜が強く扱いやすいが、光を反射するため「虚無感」は出ない。
ご覧の通り、ベンタブラックと太黒門・黒色無双の数値差はわずか0.1〜0.5%程度です。人間の目は、吸収率が99%を超えると、その差をほとんど認識できません。つまり、実用上はこれらを使うことで、ベンタブラックと同等の「虚無」を作り出すことが可能なのです。
「塗る」黒色無双と、「撮る」太黒門の使い分け
ここで重要なのが、黒色無双と太黒門は、互いに補完し合う関係にあるということです。
- 黒色無双: プラモデルやフィギュアの本体を塗るための塗料です。バーニアの内部、マントの裏側、影になる部分に塗ることで、圧倒的な立体感と奥行きを表現できます。
- 太黒門: 作品を撮影する際の背景として敷くための布です。パイル(起毛)処理が施されており、光を物理的に閉じ込めます。これを背景にすると、合成写真のように被写体が浮かび上がります。
この2つを組み合わせることで、あなたの作品世界から「光の反射」を完全に排除することができるのです。
【失敗回避】黒色無双で「虚無」を作るための3つの鉄則
ここからは、実際に「黒色無双」を使って塗装する際のアドバイスです。私はかつて、この塗料の特性を理解せずに扱い、せっかくの作品を台無しにした経験があります。
黒色無双は、一般的なラッカー塗料やエナメル塗料とは全く異なる性質を持っています。黒色無双とトップコート(保護剤)は、機能面で対立する「禁忌の組み合わせ」であることを含め、以下の3つの鉄則を必ず守ってください。
鉄則1:絶対に「トップコート」を吹いてはいけない
模型制作の常識として、「塗装後はトップコートで保護する」という手順があります。しかし、黒色無双においてトップコートは最大の敵です。
黒色無双が黒い理由は、表面が微細な粉状になっており、光を乱反射させずに吸収するからです。ここにトップコートを吹くと、その微細な凹凸が埋まって平滑になり、光を反射し始めます。結果として、「世界一の黒」がただの「濡れたようなグレー」に劣化してしまいます。
✍️ ワンポイントアドバイス
【結論】: 黒色無双で塗装した部分は、剥き出しのまま飾る覚悟を持ってください。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちで、良かれと思ってクリアーを吹いた瞬間に、あの魔法のような黒さが失われるからです。保護できないからこそ、塗装は全工程の「一番最後」に行う必要があります。
鉄則2:塗装面には二度と触れてはいけない
黒色無双の塗膜は、非常に脆(もろ)いです。乾燥後であっても、指で触れるだけで表面の粉状構造が潰れ、皮脂が付着します。
私が初めて黒色無双を使った時、感動のあまり乾燥したパーツを素手で掴んでしまいました。その瞬間、私の指紋がくっきりと白く浮かび上がり、二度と消えることはありませんでした。これを私は「指紋の悲劇」と呼んでいます。
- 対策: 組み立てやポージングを全て完了させてから塗装する。
- 対策: どうしても触る必要がある場合は、新品のニトリル手袋を着用し、エッジ(角)だけを持つ。
鉄則3:エアブラシで「砂吹き」を繰り返す
筆塗りも可能ですが、最高の吸光率(黒さ)を出したいなら、エアブラシと黒色無双は、性能を最大化するための必須の組み合わせです。
コツは「砂吹き」です。塗料をベタッと濡れるように吹き付けるのではなく、遠くからふわっと霧を乗せるように、少しずつ層を重ねてください。これにより、表面に微細な凹凸が形成され、光をより効率的に吸収するようになります。

よくある質問(FAQ)
最後に、黒色無双の導入を検討している方からよく受ける質問にお答えします。
Q. エアブラシを持っていませんが、筆塗りでも黒くなりますか?
A. はい、十分黒くなりますが、質感は変わります。
筆塗りの場合、アクリルガッシュ(絵の具)のようなマットな質感になります。エアブラシほどの「穴が空いたような虚無感」は出しにくいですが、筆ムラ自体が目立たないほど黒いので、部分塗装には十分実用的です。筆塗りの際は、原液のまま、優しく置くように塗るのがコツです。
Q. 海外の「Black 4.0」とはどう違いますか?
A. 模型用としては「黒色無双」の方が扱いやすいです。
イギリスのCulture Hustle社が販売する「Black 4.0」も非常に高性能ですが、粘度が高く、エアブラシで吹くには希釈の調整がシビアです。また、入手には海外通販が必要で送料もかかります。国内で手軽に入手でき、模型用に調整されている黒色無双の方が、失敗のリスクは低いと言えます。
まとめ:ベンタブラックは諦めて、今すぐ「究極の黒」を手に入れよう
ベンタブラックは、私たち個人が手に入れられるものではありません。しかし、それは「究極の黒」を諦める理由にはなりません。
- 塗るなら「黒色無双」:エアブラシで砂吹きし、トップコートは絶対にしない。
- 撮るなら「太黒門」:背景に敷くだけで、プロ級の黒バック撮影が可能になる。
この2つのマテリアルがあれば、あなたの作品に「異次元の黒」を取り入れることは今日からでも可能です。扱いには少しコツがいりますが、バシッと決まった時の、あの「脳がバグるような視覚体験」は、何物にも代えがたい快感です。
ぜひ、あなたの手でその虚無を生み出し、見る人を驚かせてください。


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