ラッシングベルトとは?新人ドライバーが「現場で信頼される」正しい使い方と事故防止のプロ技術
まずは結論。ラッシングベルトとは、荷物を確実に固定・締め付けるための専用ベルトで、トラック輸送やバイク積載などで広く使われる固定具です。
125ccクラスのバイクを軽トラに積む場合は、前輪・後輪を“クロス掛け”で固定するのが一般的で、最も安定しやすい方法です。
さて。
「ガッチャの使い方、実はよく分かっていない…」「もし走行中に荷崩れしたらどうしよう」
そんな不安を抱えながら、見よう見まねでハンドルを操作していないだろうか?
はっきり言おう。ラッシングベルトは、ただ力任せに締めれば良いわけではない。
「ハンドルの巻き取り回数」と「余りベルトの処理」にこそ、プロと素人の決定的な差が出る。
この記事では、トラックドライバー歴20年、現在は物流安全指導員を務める私、高橋が、教科書には載っていない「現場で生き残るための暗黙知」と、新人が必ず直面する「噛み込みトラブルの解決法」を伝授する。
この記事を読み終える頃には、ラッシングベルトの構造とリスクを正しく理解し、明日の配送から自信を持って荷締めができるようになっているはずだ。
この記事の著者

高橋 剛(たかはし つよし)
物流安全指導員・元長距離ドライバー
トラックドライバー歴20年。無事故無違反表彰多数。現在は運送会社の新人研修や安全講習会の講師として、「現場の厳しさ」と「身を守る技術」を伝えている。
ラッシングベルトとは?「吊る」スリングベルトとの決定的な違い
まず最初に、絶対に間違えてはいけない基本中の基本を叩き込んでおこう。
現場には似たようなベルトが存在するが、「ラッシングベルト」と「スリングベルト」は、その用途が『固定』と『吊り上げ』で完全に異なる道具だ。
ラッシングベルト(別名:ラッシング、ガッチャ、荷締めベルト)は、トラックの荷台で荷物を「固定(固縛)」するための道具だ。
一方で、スリングベルト(別名:スリング、玉掛けベルト)は、クレーンなどで荷物を「吊り上げる」ための道具だ。
もし、ラッシングベルトをクレーンの吊り作業に使えばどうなるか?
ラッシングベルトは吊り上げ荷重に耐えられる設計になっていないため、ラッシングベルトが破断し、落下事故に直結する。 逆に、スリングベルトで荷締めをしようとしても、締め付ける機構がないため荷物は固定できない。
この違いを曖昧にしたまま現場に出ることは、自分だけでなく周囲の命を危険に晒す行為だと肝に銘じてほしい。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 現場で「ベルト取ってくれ」と言われたら、必ず「ラッシングですか?スリングですか?」と確認すること。
なぜなら、現場では用語が乱れがちで、単に「ベルト」と呼ぶ先輩も多いからだ。この確認を怠って間違った道具を渡せば、君は「使えない新人」の烙印を押されるだけでなく、事故の片棒を担ぐことになりかねない。確認は恥ではない。プロの義務だ。
現場で「こいつ分かってるな」と思われるプロの使い方【基本編】
道具の役割を理解したところで、いよいよ実践的な使い方に入ろう。
ここで教えるのは、単なるマニュアルの手順ではない。現場で「こいつ、分かってるな」と一目置かれるための「プロの所作」だ。
特に重要なのが、ラチェットバックル(締め付け機)の「巻き取り回数」だ。
結論から言おう。ハンドルに巻き取るベルトの量は「2回から4回」が黄金比だ。
正しい荷締めのステップ
- フックを掛ける:
ラッシングベルトの端末金具(フックやワンピース)を、トラックのレールやフックに確実に掛ける。この時、ベルトにねじれがないか必ず確認する。ねじれたベルトは強度が著しく低下する。 - ベルトを引き込む:
ラチェットバックルのレバーを握り、スリット(切れ込み)にベルトを通す。そして、手でベルトを限界まで引っ張り、たるみを取る。 ここでたるみを残すと、後の巻き取り過多の原因になる。 - ハンドルを操作して締める:
ハンドルを反復させて締め上げる。ここで「2回〜4回」巻き取った状態でガッチリ固定されるのがベストだ。 - ハンドルをロックする:
締め終わったら、ハンドルを倒して確実にロック位置に固定する。
なぜ「2回〜4回」なのか?
巻き取りが2回未満だと、摩擦力が不足してベルトが滑り、緩む原因になる。
逆に4回以上巻きすぎると、ベルトがバックル内で団子状になり、食い込んで外れなくなる「噛み込み(ロック)」を引き起こす。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「出発して30分後」に必ず一度停車し、「増し締め」を行うこと。
なぜなら、どんなに完璧に締めても、走行の振動で荷物が沈み込み、ベルトには必ず「初期緩み」が発生するからだ。この増し締めこそが、プロと素人を分ける決定的な差であり、荷崩れ事故を防ぐ最後の砦となる。
トラブル回避の暗黙知!「噛み込み解除」と「余りベルトの処理」
新人が現場で最も焦る瞬間。それは、「ガッチャが噛み込んで外れない!」というトラブルと、「余った長いベルトをどうすればいいか分からない」という悩みだ。
ここでは、先輩たちが現場で実践している解決策を教えよう。
1. 噛み込み(ロック)の解除方法
巻きすぎなどが原因で、リリースレバーを引いてもハンドルが動かなくなることがある。これを無理に力任せに動かそうとしても、バックルを破損させるだけだ。
【プロの解除テクニック:合わせ技】
通常はリリースレバーを引きながらハンドルを全開(180度)にするが、硬くて動かない時は以下の手順を試してほしい。
- 少し「締める」方向に力を入れる:
ハンドルを少しだけ「締める」方向に押し込み、ラチェットの歯にかかっているテンション(負荷)を一瞬抜く。 - その瞬間にレバーを引く:
テンションが抜けた一瞬の隙を逃さず、リリースレバーを強く引く。 - ハンドルを倒す:
レバーを引いたまま、ハンドルを水平(180度)まで倒しきる。
この「押して、引く」感覚を掴めば、大抵の噛み込みは解除できる。
2. 余りベルトの「プロ結び」
締め終わった後、長く余ったベルトをそのまま床に放置したり、適当に結んだりしていないだろうか?
余りベルトが風でバタつくと、ベルト自体が傷んで寿命が縮むだけでなく、隣の車や荷物を叩いて破損させるリスクがある。 見栄えの問題ではなく、安全管理の問題なのだ。
【簡単で解けないプロの結び方】
- 余ったベルトを、手のひらサイズ(約30cm)程度になるまでパタパタと折りたたむ。
- 折りたたんだ束を、バックル付近の張っているベルトの上に置く。
- 余りの先端部分を使って、束と張っているベルトを一緒にくるりと巻く。
- 最後に輪っかを作って通し、キュッと締める。
これで走行風でもバタつかず、荷解きの際は先端を引くだけでスルッと解ける。これができれば、現場での評価はグッと上がるはずだ。
命を守る「選び方」と「廃棄基準」
最後に、道具選びと点検について話そう。
会社の備品を使うことが多いかもしれないが、「どのベルトを使うか選ぶ」のも、「そのベルトが安全か判断する」のも、ハンドルを握るドライバーの責任だ。
トラック輸送に適した選び方
ラッシングベルトには大きく分けて「ラチェット式」と「カム式」があるが、トラック輸送では強力な締め付けができるラチェット式一択だ。
また、端末金具は荷台の形状に合わせて選ぶ必要がある。
📊 比較表
表タイトル: トラック輸送におけるラッシングベルト端末金具の選び方
端末金具の種類 特徴・用途 適した荷台・シチュエーション レールフック トラックのラッシングレール専用。ワンタッチで着脱可能。 箱車(ウィング車・バン車)の標準装備レール ナローフック 一般的なフック形状。アイボルトやフックに掛ける。 平ボディ車、カゴ台車、レールのない車両 ワンピース レールへの固定専用だが、フックよりも薄型で荷物に干渉しにくい。 箱車で、荷物を壁際ギリギリまで寄せたい場合 エンドレス 金具がなく、ベルト自体を輪にして使用。 パレット上の荷物をまとめて縛る場合(荷崩れ防止)
命を守る廃棄基準
「少しほつれているけど、まだ使えるだろう」。その油断が命取りになる。
ラッシングベルトは消耗品だ。JIS規格やメーカー基準では、明確な廃棄基準が定められている。
- 使用期限: 屋外使用で3年、屋内使用で7年。
- 目視点検: ベルトに「織目が見えないほどの毛羽立ち」や、キズ、切り込みがある場合。
- シグナル: 多くの製品には、使用限界を知らせる「赤色のライン(ウルトラストッパー)」などが埋め込まれている。これが見えたら即廃棄だ。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 自分のトラックのベルトを今すぐ点検し、ダメなものは会社に報告して交換してもらうこと。
なぜなら、万が一事故が起きた時、「会社が新しいのを買ってくれなかった」という言い訳は警察にも世間にも通用しないからだ。整備不良の道具を使って事故を起こせば、ドライバーである君の責任(安全運転義務違反)が問われる。自分の身を守るために、道具には妥協してはいけない。
よくある質問(FAQ)
現場の新人ドライバーからよく受ける質問に答えよう。
Q. トラックの「あおり(側面の枠)」にフックを掛けてもいいですか?
A. 絶対にNGだ。
あおりは構造上、内側に引っ張る力に弱く、ラッシングベルトの強力な張力で簡単に曲がったり破損したりする。必ず床面のフックや専用のレールを使用すること。
Q. 雨に濡れたまま放置しても大丈夫ですか?
A. すぐに錆びて動かなくなるので手入れが必要だ。
特にラチェットバックル部分は金属の塊だ。濡れた場合は乾いた布で拭き、定期的に潤滑油(CRCなど)を差すこと。動きが悪い道具は、作業効率を下げるだけでなく、締め付け不足の原因にもなる。
まとめ:君はもう「素人」ではない
ここまで読んでくれた君なら、もうラッシングベルトの使い方で迷うことはないはずだ。
- 用途の区別: ラッシングベルトは「固定用」。吊り作業には絶対に使わない。
- 黄金比: ハンドルの巻き取りは「2回〜4回」を守る。
- プロの所作: 「余りベルトの処理」と「出発後の増し締め」を徹底する。
- 安全管理: 危険なベルトは使う勇気ではなく、捨てる勇気を持つ。
ラッシングベルトは、君の荷物だけでなく、君自身のドライバー人生を守る命綱だ。
明日からの現場で、ぜひこの技術を実践してみてほしい。確実な荷締めができれば、バックミラーに映る荷物を不安げに見る回数は激減し、自信を持ってハンドルを握れるようになるはずだ。
ご安全に!
参考文献
- 安全輸送のための積付け・固縛方法 – 公益社団法人 全日本トラック協会
- 荷役作業安全ガイドライン – 陸上貨物運送事業労働災害防止協会
- オールセーフ ラッシングベルト取扱説明書 – オールセーフ株式会社
- JIS B 8850:2008 荷締機 – 日本産業規格


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